カフェインを飲んだ夜は、眠っている時間が45分ほど短くなる。
深い眠りは11分。夜中に目がさめている時間は12分増える。
オーストラリアの大学が、24件の研究をまとめた数字だ。
深い眠りは、体を作り直している時間になる。そこから先に消えていく。
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78%は、けずられたことに気づかない
同じ大学が、こんな実験をしている。男性23人に、量とタイミングを変えてカフェインを飲ませ、自宅で眠りを測った。
翌朝、本人に聞いてみる。自分はどれだけの量を、いつ飲んだと思うか。
当てられたのは、22%だけ。
残りの78%は、眠りをけずられた夜と、そうでない夜の区別がついていなかった。
よく眠れた気がする、という感覚は当てにならない。
| 眠っている時間 | |
|---|---|
| 100mg(コーヒー1杯弱) | 変わらない |
| 400mg・寝る4時間前 | −50.6分 |
| 400mg・寝る8時間前 | −28.7分 |
| 400mg・寝る12時間前 | −30.0分 |
400mgだと、寝る12時間前に飲んでいても眠りが短くなっている。朝に飲んだものが、その夜まで残っている。
100mgなら、寝る4時間前でも変わらなかった。
けずられた眠りは、顔に出る

自分では気づかない。他人は気づく。
カロリンスカ研究所が、睡眠をけずった人の顔を撮って、他人に見せて聞いている。何がどう変わって見えるか、100点満点で出した結果がこれになる。
| まぶたが垂れる | +15 |
|---|---|
| 口角が下がる | +11 |
| 目が腫れる | +10 |
| クマ | +7 |
| 顔色が悪い | +3 |
まぶた、目の腫れ、クマ。顔の上半分が落ちていく。そして口角が下がる。
肌荒れは、はっきりした変化が出ていない。荒れるのではない。垂れる。
そして、人が離れていく

4時間の睡眠を2晩つづけた人の写真を、122人に見せた実験がある。
下がったのは、魅力より先に 「この人と一緒に過ごしたい」 のほうだった。
顔が悪くなるのではない。近寄りがたくなる。
一晩の話ではない。毎日のコーヒーが毎晩45分をけずるなら、その顔のほうが標準になる。
体は、動かなくなることで崩れていく
「睡眠をけずるとテストステロンが下がる」という話がある。よく引かれるのは10人を調べた研究だ。18件・252人をまとめたものでは、ふつうの寝不足では下がらなかった。下がるのは徹夜のときだけだった。
ホルモンではない。もっと単純な話だった。
日本人男性31,206人を1年追いかけた調査では、睡眠が5時間より短い人が1年後に太っているリスクは 1.91倍。
理由は、動かなくなることにある。睡眠が減った人は、1日に座っている時間が17分のびていた。
眠りがけずられる。翌日に食べる量が増える。そして動かなくなる。
カフェインは、この一本目のドミノを倒しているだけだ。
体質のせいには、できない
「自分はカフェインに強い体質だから」
カルガリー大学が6,112人を調べている。カフェインの分解にかかわる遺伝子の型と、睡眠の乱れにつながりはなかった。効いていたのは、飲んだ量のほうだった。
日本人を対象にした調査でも同じだった。
強いか弱いかではない。量と時刻の話になる。
「カフェイン依存症」という病名は、存在しない
アメリカ精神医学会の診断基準に、カフェイン依存という病名はない。10ある物質のうち、依存の診断がないのはカフェインだけになる。
病気として扱われているのは、やめたときの反動のほうだ。
毎日飲んでいた人がやめると、24時間以内に頭痛が出る。強い疲れ、眠気、いらだち、集中しにくさ。3つ以上そろえば、正式な病名がつく。
依存のほうは病気として認めていない。やめたときの苦しさだけが、病名を持っている。
痰が絡むのは、コーヒーのせいではない
コーヒーをよく飲む人は、喋る前に咳払いをして痰を切る。そういう話がある。
コーヒーと咳払いを直接しらべた研究は、1件もなかった。
代わりに、はっきりした原因がある。タバコだ。
遺伝子を使って調べたもので分かったのは、タバコを吸う人ほどコーヒーを多く飲む、という向きだった。逆ではない。タバコがカフェインの分解を速めてしまうので、同じ効きを求めて杯数が増えていく。
コーヒーを飲まない男性で、タバコを吸う人は4.8%。1日6杯以上飲む男性では34.7%になる。
コーヒーは、そこに居合わせていただけだった。
10年で、いくら払うことになるか

コンビニのコーヒーが1杯150円。毎日買えば、1年で54,750円になる。
10年で、54万円。
カフェで1杯400円なら、10年で146万円だ。
同じ10年で、眠りのほうはどうなっているか。
1晩45分。1年で273時間。10年で、114日。
まるまる4ヶ月ぶんの眠りが、どこにも記録されないまま消えていく。
お金を払って、眠りを減らしている。
しかもその眠りは、顔と、体と、人との距離になって返ってくる。
54万円と114日。10年後にこれを取り返す方法はない。
睡眠が健康でなければ、その人は健康ではない。
── ウィリアム・デメント(スタンフォード大学・睡眠医学の創始者)
今日、1つだけ
さきほどの報告は、コーヒー1杯分なら寝る8.8時間前まで、という目安を出している。
23時に寝るなら、午後2時になる。
午後2時をすぎたら、コーヒーを飲まない。
やめる必要はない。減らす必要もない。朝の1杯はそのままでいい。時間だけ動かす。
それだけで、54万円のうち失っていた114日が、こちら側に戻ってくる。
そして翌朝、目がさめたら歩く。動かなくなることで崩れるなら、動くことから戻していける。
この記事の抜け殻指数は「ほぼ0」
抜け殻指数は、依存が1日からうばう時間の割合だった。
カフェインを入れても、ほとんど0になる。コーヒーを飲む行為そのものに使う時間は、1日で数分しかない。
カフェインは、時間をうばわない。
うばうのは、そのあとの回復のほうだ。45分の眠り。11分の深い眠り。垂れたまぶたと、離れていく人。
時間の軸では測れない。だから指数は出さない。
測れないものが、いちばん静かに削れていく。
明日の午後2時から、やめてみる。
あなたは弱いのではない。1日を、設計されていないだけだ。
抜け殻とは、人のことじゃない。1日が空になっている状態のことだ。
状態は、もどせる。