設計された依存

SNSの比較|比べて落ちるのは、あなたが弱いからじゃない

映画のフレームのように上下に黒い帯が入った画像。夜の廃墟の街の大通り。行き交う人影の頭上に、それぞれ小さな金色の星が浮かんでいる。中央に黒い四角で囲んだ白い文字「CHAPTER 4」、その下に大きな赤い文字で「比べるほど、儲かる。」、さらに下に白い文字で「SNSの比較」

いま、だれかの投稿を見て、ちょっと落ちた?

同い年のやつの、新しい車。

知らない男の、割れた腹筋。

友だちの、海外旅行。

もしそうなら、先にひとつだけ言わせて。

それ、あなたが弱いからじゃない。

比べるほど儲かるように、点数が設計されてる。

しかも作った会社は、それを自分で測ってた。

これは、全員が星をつけ合う世界の映画だ。

PROLOGUE
FOUR POINT TWO

序幕 4.2の朝

夜明け前の廃墟の住宅街。割れた大きなショーウィンドウの前に、ひとりの人影が立って、ガラスに映る自分を見ている。顔は見えない。通りの奥を歩く人影の頭上には、小さな金色の星。赤い空

Netflixのドラマ『ブラック・ミラー』に、「ランク社会」っていう回がある。

2016年の作品だ。

その世界では、全員が全員を、5つ星で採点してる。

コーヒーを買えば、店員に星。

エレベーターで会えば、ご近所に星。

星の平均が、その人の「点数」になる。

点数で、住める家も、乗れる飛行機も、受けられる治療も決まる。

主人公のレイシーは、4.2。

悪くない。でも、上でもない。

狙ってる高級マンションがあって、4.5になれば家賃が2割引きになる。

4.2 → 4.5

だから、鏡の前で笑い方の練習までする。

すれ違う人みんなに、とびきりの愛想。

それでも、点数はぜんぜん上がらない。

2016年には、ブラックジョークだった。いまは、スマホの中身そのものだ。

SCENE 0-1
作った会社が、自分で書いてた

2019年10月。

Instagramの社内で、ある資料が回った。

題は「10代のメンタルヘルス 深掘り調査」。

2021年の内部告発で表に出て、いまはMeta(Instagramの親会社)が自分のサイトで公開してる。

その4枚目に、こうある。

TESTIMONY

「Instagramでの害は、大きく3つに分かれる。社会的比較、社会的なプレッシャー、そして他人との嫌なやりとり。」

— Instagram の社内資料「Teen Mental Health Deep Dive」(2019年10月)。Meta が2021年に公開

1つ目が、「比較」。

30枚目の題は、もっとストレートだ。

「社会的比較は、負のループを作る」。

比べる。自分を疑う。その気持ちばっかり見ちゃう。落ちる。

落ちてるときほど、画面の中身に引っぱられる。

で、また比べる。

ぐるぐる回る仕組みを、作った側がいちばんわかってた。

フェアに書いとく。

Metaは公開するとき、「この調査のやり方では、ここまでの因果関係は言えない」って注釈をつけてる。

でも、少なくとも、会社が「比較」を害の1つ目に書いてたのはほんとだ。

この章の敵は、SNSを見てる人じゃない。

キラキラした投稿をしてる人でもない。

比べるほど儲かるように、点数を設計したやつらだ。

ACT I
THE SCORE

第一幕 人生、星いくつ?

廃墟になった巨大な駅のホール。天井から吊られた壊れた掲示板に、文字のかわりに小さな金色の星の列と光の帯が並んでいる。その下を、スマホの光に照らされた人影たちが行き交う。割れた天井の向こうに赤い空

ドラマのレイシーは、点数を上げたくて、プロのコンサルタントに相談する。

言われたのは、こう。

「理想は、質の高い人たちからの高評価。つまり、4点台後半の人たち」

で、帰りぎわに、もう一言。

TESTIMONY

「がんばりすぎちゃダメ。そういうのは尊敬されない。4点台後半の人は、すぐかぎつける。自然体で。本物っぽい仕草、それがカギ。」

— ドラマ『ブラック・ミラー』「ランク社会」(2016年)の字幕より、点数コンサルタントの台詞

「自然体」まで、点数を上げる手口になってる。

ドラマだから、笑える。

でも現実の点数表は、もっと身もふたもなかった。

SCENE 1-1
いいね1点、コメント30点

Facebookには、社内で使ってた点数表がある。

2018年、「友だちや家族との、意味のあるやりとりを増やす」って名目で、投稿の並べ方を変えた。そのときのもの。

いいね、1点。

ハートやハハなどの絵文字の反応、5点。

しっかりしたコメントやシェア、30点。

点数の高い投稿ほど、たくさんの人のフィードに出る。

表向きの理由は「幸せなやりとり」。

でも社内の資料には、もうひとつの理由も書いてあった。利用者が、だんだんFacebookでやりとりしなくなってた。

幸せのためっていうより、離れていく客を引き止めるためだった。

SCENE 1-2
怒らせるほど、点数が上がる

ここで、さっきの「5点」をもう1回見てほしい。

絵文字の反応には、「ひどい(怒り)」も入ってる。

2017年から、怒りの絵文字も、いいねの5倍で数えられてた。

社内では、心配する声も出てた。

「炎上しそうな投稿をひいきすると、スパムや釣りへの扉をうっかり開けるかも」

同僚の返事は、「ありうるね」。

社内のデータ科学者たちは、シェアされた投稿の中に、誤情報や攻撃的な中身がやたら多いことも書き残してる。

怒らせるほど、点数が上がる。点数が上がるほど、広がる。

怒りの重さは、2018年に4倍へ。

2020年9月、やっと0になった。

で、ここがこの章のポイント。

0にしたら、誤情報やショッキングな投稿は減った。

そして、利用は減らなかった。

直しても、
困らなかった。

この話、第四幕でもう1回出てくる。

SCENE 1-3
タダのSNSで、払ってるもの

元Facebook社員で内部告発者のフランシス・ホーゲンは、2021年、アメリカ議会でこう話した。

TESTIMONY

「小さなごほうびの仕組みがあると、人はもっと投稿する。そうすると私たちはもっと投稿を見て、もっと広告を見る。それが、彼らをもっと儲けさせる。」

— フランシス・ホーゲン(元 Facebook 社員)、米上院の公聴会(2021年10月5日)

いいねは、ごほうび。

ごほうびが欲しくて、投稿する。

投稿を見に来た人の目に、広告が入る。

VOICE FROM THE COMMENTS

タダのSNSでは、
あなたが
商品

— YouTube コメント(高評価 1,400)/92NYのコメント欄

SCENE 1-4
いいねを作った人も、沼った

いいねボタンを作ったチームのひとり、リア・パールマン。

2018年、BBCの取材でこう話してる。

いつのまにか、自分の価値を、いいねの数で測るようになってた、と。

TESTIMONY

「承認が欲しいとき、Facebookを見に行く。……急に思った。あれ、私もフィードバック中毒なのかもって。」

— リア・パールマン(Facebook の「いいね」ボタンの共同発明者)、BBC(2018年)

作った本人でさえ、こうなる。

あなたの意志が弱いんじゃない。そう効くように、できてる。

しかも、点数のゲームには全員が参加させられてる。

久里浜医療センターの全国調査(2025年)だと、SNSで「他人の投稿に高評価をつけた」人は30.3%。男性は25.0%。

VOICE FROM THE COMMENTS

テクノロジーも、SNSも、アルゴリズムも、こうやって効くように設計されてる。ずっと消費してたら、なにかが足りないって感じるスキもない。“フィード”(エサ)って呼ばれてるのには、ワケがある。

— YouTube コメント(高評価 136)/The Diary Of A CEOのコメント欄

星をつけられる側で、星をつける側。

全員が、点数のゲームに参加させられてる。

INTERMISSION

ここで一回、休憩。いいねの数が気になって、なにを投稿するかで手が止まる。そこで止まってる人のために、男としての土台から組み直す教材がある。続きはここで待ってる。

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ACT II
THE BROTHER

第二幕 男も、比べてる

廃墟のアパートの薄暗い部屋で、ヘッドセットをつけた男の後ろ姿。モニターには、ゲームのランクのような盾や矢印のバッジが並んでいる。半分開いた隣の部屋のドアから、金色の光がもれている。割れた窓の外は赤い空

ドラマのレイシーには、弟がいる。ライアン。

同じ部屋に住んでて、だいたいヘッドセットでゲームしてる。

姉の点数稼ぎを、弟は冷めた目で見てる。

「その高級マンション、作り笑いの牢屋だよ」

「この点数のやつ、ぜんぶさ。幸せなふりしてるだけの人たちと、自分を比べて……」

レイシーは、言い返す。

あんただって、
ゲーム仲間から
ポイントもらってるでしょ。
同じことよ。

ここ、男の話として、ガチで刺さる。

姉は、星。弟は、ゲームのポイント。

追いかけてる点数がちがうだけで、やってることは同じ。

SCENE 2-1
Instagram、男子の分も測ってた

さっきのInstagramの社内資料。32枚目の題は、これ。

TESTIMONY

「男子も女子も、同じくらいの頻度で他人と自分を比べている。ただし、比べる話題がちがう。」

— Instagram の社内資料「Teen Mental Health Deep Dive」(2019年10月)32枚目の題

女子は、体型の話が多い。

男子は、体型の言葉をあまり使わない。

かわりに出てくるのは、「ちゃんとした服」と、「まわりに合わせて物を買えるだけの金」。

社内の聞き取りで、イギリスの男子はこう言ってた。

「比べると、自信がなくなる。探索タブに出てくる、体を鍛えた男たち。……」

「結局、何百万ポンドも持ってる、ぜんぜん手の届かない人たちと比べちゃう」

アメリカの男子は、こう。

「みんな何百ドルもする服を着てる。……がんばって一番いい格好をしようとするけど、そんな金、だれが持ってるんだよ」

筋肉と、金と、服。男の比較は、ちゃんとそこにある。

フェアに書いとく。

この声は、イヤな経験がある人を選んで集めた、40人の聞き取りから出たもの。男子みんなの声じゃない。

数字もある。アメリカの男子の14%が「Instagramで、自分のことが前より悪く思えるようになった」と答えた。

でも同じ図で、50%は「良くなった」と答えてる。Metaは、反論でそっちを強調した。

どっちもほんと。

ただ、会社は、男子が落ちる分まで、ちゃんと数えてた。

SCENE 2-2
裸の筋肉だけが、効く

オーストラリアに、18〜30歳の男性300人を、くじで3つに分けた実験がある。

見せたのは、同じ男性インフルエンサーたちの写真。

服を着た写真。上半身裸で筋肉を見せた写真。それと、風景の写真。

体への満足度が下がったのは、裸の筋肉を見たグループだけ。

服の写真と風景は、ほとんど変わらなかった。

別の実験では、男性223人が7日間、自分のスマホで、ランダムに画像を見た。

筋トレ系の写真を見たあとは、体への不満が増えた。

いちばん効いたのは、もともと自分の筋肉に不満があって、人と見た目を比べがちな男。

もう落ちてるやつほど、もっと落ちる。そういう向きに効く。

どっちも、見た直後の気分の話。長い目でどうなるかまでは測ってない。

アメリカとカナダの男子・男性1,553人の調査もある。

筋肉、プロテインやサプリ、筋肉増強の薬。そういう投稿をよく見る人ほど、「筋肉が足りない」と思いこむ状態(筋肉醜形)の疑いが強かった。

しかも、SNSを使ってる時間の長さとは関係なく。

何時間見たかより、なにを見せられてるか。

どっちが先かはまだわからない、と研究者自身が書いてる。そこは言い切らない。

SCENE 2-3
顔に、点数がつく

服、金、筋肉。

その次に来るのが、いちばん逃げ場のないやつ。顔だ。

ちょっと正直に答えてほしい。

インカメで、自分の横顔をこっそりチェックしたことある?

「垢抜け」「清潔感」で、検索したことは?

AIの顔診断で、自分の顔に点数をつけたことは?

1個でも当てはまるなら、あなたもう、レイシーと同じゲームの中にいる。

星のかわりに、顔の点数。

気づいたら、けっこうな数の男が、このゲームに取りこまれてる。

日本の13〜29歳の半分以上(54.0%)が、「容姿のこと」を心配してる。こども家庭庁の2023年の調査だ(男女をまとめた数字)。

イギリスでは2026年、男子と見た目の執着を調べた報告書が出た。

男子たちは、検索しなくても、その手の投稿がフィードに流れてくるって話してた。

16歳の男子は、こう言ってる。「みんな、しょっちゅう自分の顔を載せて、採点してくれって頼んでる」。

海外では、これに名前がついてる。

looksmaxxing(ルックスマックス)。見た目を、限界まで最大化する、っていうネットのスラング。

顔の点数のつけ方は、もともとネットの掲示板で、男どうしが顔を採点しあってたところから来てる。

それを、アプリが自動にした。

研究者がTikTokを調べたら、そういうアプリが十数本見つかった。中身は、ほぼ同じ。

自撮りを1枚あげる。

AIが、あごの角度だの、なんとか比率だのを測る。

点数とランクが出て、「あなたの伸びしろ」まで出る。

その先を見るには、週ごとのサブスク。

人気のアプリのひとつ、Umax。App Storeの説明には、こう書いてある。

「分析結果を見るにはサブスクリプションが必要。追加の採点には追加の購入が必要」

課金メニューには、「10点満点になった自分」の画像。6.99ドル。

Google Playだけで、1,000万回以上ダウンロードされてる。

点数をつけて、
上げ方を売る。

ドラマの点数コンサルと、まったく同じ商売だ。

オーストラリアの研究者は、利用者が共有した画面をいくつも調べて、こう見てる。

TESTIMONY

「まず、わりと否定的な評価が出る。アプリには、改善の余地が十分に要るから。だってサブスクでしょ? 課金を続けさせたいわけ。」

— クリストファー・デイヴィッド(ドイツ・ノイウルム応用科学大学の研究者)、オーストラリアの ABC News(2026年10月)

これは研究者の見立てで、会社が「わざと低くつけてる」っていう証拠があるわけじゃない。そこはフェアに書いとく。

でも、その記事を書いた記者の一文は、仕組みそのものだった。

欠点がたくさん見つかるほど、売れる解決策もたくさんになる。

もうひとつ、フェアに。

見た目を気にすること自体は、悪くない。

イギリスの研究者は、「ルックスマックスには幅がある」って言ってる。健康に気をつかって、体を鍛える。そこには、いい面もある。

問題は、それが「たったひとつのこと」になって、健康を賭けてまで見た目をいじりはじめたとき。

じっさい、あごのラインを変えるとうたうSNSの流行りのやり方に、アメリカの矯正歯科の学会が「科学的な裏づけがない」と警告を出してる。

SCENE 2-4
「多分、手遅れです」

日本だと、もっと身近な形で流れてくる。

このサイトで2026年10月にTikTokを調べたとき、男向けの「悪習慣」「非モテ脱却」のタグで、こんな投稿が回ってた。

「これが10点以上ある男子、多分手遅れです。」

並んでるのは、肌のテカリ、ニキビ、化粧水を使ってない、みたいなチェックリスト。

で、最後はこう終わる。

「プロフィールのリンクからおすすめのスキンケア」

別の投稿は、買うまでの道順まで書いてた。

【プロフィール】→【紹介リンク】→【商品を確認】→【購入】

これで、47万回再生。

一字一句同じ説明文の投稿を、2つのアカウントが10本も出してた。

「知らないうちに損してる非モテ習慣。あなたは大丈夫?」

同じ文を、74秒差で投稿した日まである。10本あわせて、132万回。

広告費が払われてるのかは、外からはわからない。

でも、あなたの顔の点数表が、だれかの売り場の入口になってるのはほんとだ。

「手遅れ」って言葉、ちょっと覚えといて。

国民生活センターの資料に、30代の男性の例がある。

薄毛の治療のクリニックで「もう少し進行すると手遅れになり治療できない」と言われて、約200万円の契約をした。

20代の男性の例もある。

「全身脱毛が5回で15万円」の広告を見て行ったら、「本日の契約なら」で約90万円。3年の分割払い。

10〜20代の男性の脱毛エステの相談は、2018年度の87件から、2021年度は541件。

平均の契約額は、男性が約52万円。女性の約34万円より高かった。

「手遅れ」で、
不安を作る。
「今日なら」で、
売る。

「清潔感」も、同じ型に乗ってる。

ABEMA Primeの「【ひげ】清潔感って必要?髪型や服装も?人は見た目で判断する?」って回で、美容ジャーナリストが話してた。

清潔と清潔感は、「実はあの全く別物」。清潔感は「あくまでこう他人から見た印象」だって。

清潔は、自分で決められる。

清潔感は、他人が採点する。

他人が採点する言葉は、いくらでも売り物にできる。

VOICE FROM THE COMMENTS

コンプレックス作るビジネスは信用出来んのよなぁ

— YouTube コメント(高評価 375)/ABEMA Primeのコメント欄

フェアに書いとく。

肌のケアも、脱毛も、悪くない。

ABEMA Primeの脱毛の回には、ヒゲを剃るたびに血が出てたのが、医療脱毛で救われたってコメントもあった。

やりたい男は、やればいい。

問題は、手入れそのものじゃない。

先に「手遅れ」の不安を作って、点数で追いこんで、その先に売り場を置く仕組みだ。

整形みたいに顔を変えるカメラのフィルターの話は、第四幕でもう1回出てくる。

SCENE 2-5
男の点数は、ゲームに移る

アメリカの社会心理学者、ジョナサン・ハイト。

2026年に日本語版が出た『不安の世代』で、こう整理してる。

女子は、SNSの比較で傷つく。

男子は、現実の世界から押し出されて、ゲームやネットの世界に引きこまれていく。

“
WORDS TO REMEMBER

男の子たちが、危ない。その多くが、現実の世界から降りてしまった。有能で、うまくやれて、人を愛せる男になるための力は、そこでこそ身につくのに。かわりに、どんどん魅力を増す仮想の世界へ誘いこまれている。そこでは冒険への欲も、性への欲も、少なくとも表面上は満たされる。仕事でも、恋愛でも、結婚でも、あとで役に立つことを何ひとつしなくても。

— ジョナサン・ハイト(2023年のエッセイ)。著書『不安の世代』

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ハイト本人も、男子の章は「より推測的な話」って書いてる。

学者からの反論も多い(第五幕で書く)。だから、言い切りはしない。

でも、日本の数字は、この整理とけっこう合ってる。

久里浜医療センターの全国調査(2025年1〜2月)。

10〜29歳で「ゲーム行動症」の疑いがあったのは、男性14.6%、女性5.8%。

SNSの使いすぎの疑いは、同じ年代で男女とも5.8%。差がない。

男女で差が出るのは、SNSじゃなくて、ゲームのほう。

レイシーの弟と、同じだ。

男の点数は、星からランクに移っただけかもしれない。

ただ、ここもフェアに書いとく。

ゲームをする男が、悪いわけじゃない。

WHOは2019年、病気の国際的な分類に「ゲーム行動症」を入れた。

でも同じWHOが、なるのは「ゲームをする人の、ごく一部」とも書いてる。

線引きは、時間の長さじゃない。WHOがあげてるのは、この3つだ。

自分で止められない。

ほかの用事や人より、ゲームが先にくる。

まずいことが起きても、続けてしまう。

それが1年くらい続いて、生活が回らなくなったとき。

何時間やったかじゃない。決めた時間に、自分で止められるか。

久里浜医療センターが2019年にやった別の全国調査もある。

1日1時間もやらない人でも、約半分が「思ってたより、つい長くなった」と答えてる。

短くても、止まりにくい。長くても、平気な人もいる。

VOICE FROM THE COMMENTS

昔は趣味だらけだった。木工、筋トレ、庭いじり、車いじり。いまは、スマホ見てるだけ。今日から変える。

— YouTube コメント(高評価 160)/AsapSCIENCEのコメント欄

ACT III
THE RABBIT HOLE

第三幕 穴は、掘られてる

地面にぽっかり開いた巨大な縦穴を、上からのぞきこむ構図。穴の壁にそって、無数のスマホの画面がらせん状に光りながら、底の見えない暗闇へ続いている。穴のふちに、小さな男の人影が立っている。赤い空

ドラマで、レイシーの点数は、ちょっとしたことで崩れはじめる。

朝から小さなトラブルが続いて、知らない人に低い星をつけられる。

4.2を切って、4.183。

空港で、乗るはずの便が欠航。

振替は「4.2以上の方のみ」。

キレた瞬間、警備員に罰をくらう。「ダブルダメージ」。24時間、まるまる1点マイナス。

落ちはじめた人のために、落ちる仕組みが待ってる。

SCENE 3-1
「終わりのない穴」

2020年3月、Instagramの社内サイトに、10代の女子の体型と比較についての調査が上がった。

その要約に、こうある。

TESTIMONY

「Instagramでの比較は、ほかよりひどい。……探索タブと、他人のプロフィールののぞき見が、終わりのない“うさぎの穴”を生む。」

— Instagram の社内調査「10代女子の体型と社会的比較」(2020年3月)。WSJ が2021年に公開

うさぎの穴。アリスが落ちてく、あれ。

探索タブは、あなたがフォローしてない人の投稿を、会社が選んで並べる場所だ。

アメリカの州が裁判所に出した訴状には、2021年の社内の論文が引かれてる。

推薦で「見た目で比べさせる投稿」を多く浴びる状態に入ると、次の週、10代の女子はその手の投稿を14.9%多く見た。

男子も、13.1%多く見た。

穴を掘ってるのは、あなたの親指じゃない。

SCENE 3-2
友だちの「いちばんウケた投稿」だけ

2020年4月の社内研究には、仕組みそのものが書いてある(これも訴状より)。

投稿の並べ方は、反応の多い投稿を上に出しがち。

だから、あなたが見るのは、友だちの「いちばんウケた投稿」ばっかりになる。

それと自分の投稿の反応を比べたら、友だちがじっさいより人気者に見えて、自分が下に感じる。

しかも社内の数字だと、自分の投稿につくいいねは、Instagramで見てる他人の投稿のいいねの、だいたい5%。

あなたのいいねは、
見てる投稿の
20分の1。

勝てない比べっこを、毎日、自動で組まれてる。

社内の別の資料には、こんな言葉もあった。

「若い人は、Instagramを人気コンテストだと受けとってる」

「社会的プレッシャーは、Instagramの体験そのものに組みこまれてる」

SCENE 3-3
トップが書いた「存亡」

で、Instagramのトップ、アダム・モセリ。

社内のメールに、こう書いてる。

INTERNAL EMAIL

社会的比較は、
Instagramが向き合う
存亡の問いだ

“I see social comparison as the existential question Instagram faces”

— Instagram の責任者アダム・モセリの社内メール(米国の州司法長官による訴状より)

存亡。つまり、会社があるかないかの問題。

比較は、たまたま出たおまけの副作用じゃなかった。

Instagramのど真ん中の問題だって、トップがわかってた。

無限スクロールを設計したエイザ・ラスキンは、2018年、BBCにこう言ってる。

TESTIMONY

「スマホの画面の裏には、だいたい文字どおり千人のエンジニアがいて、これを最大限やめられなくしようとしてる。」

— エイザ・ラスキン(無限スクロールの設計者)、BBC(2018年)

千人 vs あなたひとり。

意志で勝てって言うほうが、ムリゲーだ。

SCENE 3-4
「素」のアプリにも、縛りとごほうび

日本では、「映え疲れ」って言葉まで出てきた。

ABEMA Primeに「【BeReal】映え疲れの反動?承認欲求に変化?素を見せるSNSなぜ人気?」って回がある。

出演者は「インスタとかがすごいその自慢合戦にこうなってきて」と話してた。

そこで若い人に広がったのが、BeReal。盛らない「素」を見せるSNS、って触れこみ。

でも、番組が説明したルールは、こう。

通知は1日1回。いつ来るかわからない。

来たら、2分以内に撮って投稿。間に合わないと、投稿の回数に制限。

自分が投稿しないと、友だちの投稿は見られない。

2分以内に出せば、その日に投稿できる枠が増える。

「素」を見せるアプリにも、ちゃんと縛りとごほうびが設計されてる。

VOICE FROM THE COMMENTS

本当にビーリアルは素をみせたいじゃなくてつくった素をみせる場所

— YouTube コメント(高評価 544)/ABEMA Primeのコメント欄

ドラマのコンサルの「自然体で。本物っぽい仕草がカギ」と、まったく同じだ。

SCENE 3-5
不満は、営業の入口

もうひとつ、日本の国の機関の資料。

国民生活センターが2026年9月に出した注意喚起だ。

AI講座やSNS運用講座みたいな「ビジネス講座」の相談は、2020年度の1,169件から、2025年度は3,551件に増えた。

先に正直に書いとく。この手の相談は、女性のほうが多い(6割超)。

男だけが狙われてる話じゃない。

そのうえで、載ってた20代男性の例。

SNSでAIの副業の広告を見て、1万円の教材を買った。そしたら、上のプランをすすめられた。

TESTIMONY

「現状や悩み、不満などを聞かれ、「現状を変えるにはスキルを磨く必要がある。お金を稼ぐためにはAIの利用が適切だ。講座代は1、2カ月ですぐに取り戻せる」などと案内された。」

— 国民生活センター「ビジネス講座のトラブルにご注意」(2026年9月16日)の相談事例

契約は、約80万円。36回払い。

比べて生まれた不満が、そのまま営業トークの入口になってる。

INTERMISSION

ここでちょうど半分。比べて落ちた夜、親指が次に向かう先がある。第1章で書いた、あの画面もそう。そっちの夜を断つための教材も、当サイトで紹介してる。

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ACT IV
THEY KNEW THE FIX

第四幕 直し方、知ってた

夜の高層ビルの最上階にある、がらんとした会議室。長いテーブルの真ん中に、一枚の白い紙と古いゴム印、こぼれた赤いインク。床から天井までの窓の外には、赤い空と、明かりの消えた街。人の姿はない

ここからが、この章の本番。

会社は、比較が害になるって知ってた。

それだけじゃない。

直し方まで、知ってた。

ここから先の社内文書は、アメリカの州が裁判所に出した訴状に引かれたもの。

Metaは「都合のいい部分だけ切り取ってる」と反論してる。そこは先に書いとく。

SCENE 4-1
いいねを、隠してみた

2020年、Instagramは社内で、ある実験をした。

名前は「Project Daisy(プロジェクト・デイジー)」。

中身はシンプル。いいねの数を、隠す。

結果。

いいねの数を隠すと、ネガティブな比較が減った。

10代の「いいねでの比べっこ」も、統計ではっきり減った。

社内の研究者たちは「いいねの数を見ることと社会的比較のあいだに、因果のつながりがあると自信を持っている」とまで書いた。

TESTIMONY

「デイジーは、製品の工夫で、使っているほぼ全員の幸福を上げられる、めったにないケースだ。」

— Meta の社内文書(米国の州司法長官による訴状より)

じゃあ、全員に入れた?

入れなかった。

利用と売上への影響をみつもって、最初から隠す設定にはしないと決めた。

そのみつもりの中には、広告の売上が約1%下がる、って数字があった。

みんなの幸福と、
広告の1%。

フェアに書くと、社内には「一部の人には効いて、ほかの人には効果がなかった」って記録もある。

それでも社内の言葉は、「ほぼ全員の幸福を上げられる、めったにないケース」だった。

SCENE 4-2
0.72%と、35%

かわりに会社は、2021年、いいねを隠すかどうかを「選べる」ようにした。

モセリは2019年のテレビの取材で、こう言ってた。

「Instagramを、プレッシャーの少ない場所にしたい。競争っぽさを減らしたい」。

で、選べるようにした結果。社内の文書には、こうある。

自分で「隠す」を選んだ人は、0.72%。

最初から隠してあった場合は、35%がそのまま隠してた。

0.72%と、35%。

これが、「最初の設定」の力。

人は、最初の設定をほとんど変えない。

だから、最初の設定を決める人が、ほぼぜんぶを決めてる。

社内のチャットでは、「選べるだけ」の仕組みを、こうたとえた人がいた。

「机の上にジャンクフードを置いて、“食べるかどうかは自由。ジャンクフードは体に悪いよ”って札を立てるようなもの」

「選べるようにしました」は、最初の設定を変えないための言いかえだった。

VOICE FROM THE COMMENTS

SNSの時間を減らすって誓った。でも正直、ほとんど変わってない。マジで依存。

— YouTube コメント(高評価 387)/92NYのコメント欄

変わらないのは、あなたの意志のせいだけじゃない。

最初の設定を、向こうが握ってるから。

2021年4月、Instagramの公共政策の責任者は、社内でこう書いてる。

専門家からは「10代には最初からデイジーをオンに」って助言をもらい続けてる、と。

同じ年の7月。モセリはその提案を「すぐに」却下した。

理由は、「“いいねは若い人に悪い”っていう世間の見方を、認めることになるから」。

効くとわかってた。それでも、最初の設定は変えなかった。

SCENE 4-3
整形フィルターは「お節介」

もうひとつ。

カメラのフィルターに、整形手術をしたみたいに顔を変えるものがあった。

社内は、世界の専門家21人に意見を聞いた。

まとめは、「こういう極端な整形風のエフェクトは、使う人にも、その画像を見る人にも、深刻な影響を与えうる」。

禁止を続けると、会社の成長にマイナス、ってメモもついてた。

最後に決めたのは、マーク・ザッカーバーグ。

禁止の案を、却下した。

理由は「パターナリスティック」。つまり、「お節介」。

当時の製品デザインの副社長は、こう書いて残した。

TESTIMONY

「あなたの判断は尊重するし、従います。でも記録として言わせてほしい。リスクを考えると、正しい判断だとは思いません。……何年かあとに振り返ったとき、ここで下した決断をよかったと思えることを、ただ願っています。」

— マーガレット・グールド・スチュワート(当時の Facebook 製品デザイン担当副社長)の社内メール(米国の州司法長官による訴状より)

何年かあと、は、わりとすぐ来た。

SCENE 4-4
知ってて、選んだ

ホーゲンは、議会でこうも言ってる。

「会社の経営陣は、FacebookとInstagramをもっと安全にする方法を知っている」

「でも、必要な変更をしようとしない。人よりも、とてつもない利益を優先したからだ」

比較が害になると、測ってた。

直し方も、自分たちの実験でわかってた。

直しても困らないことも、怒りの絵文字で1回たしかめてた。

それでも、最初の設定は変えなかった。

知らなかったんじゃない。
知ってて、選んだ。

INTERMISSION

ここで胸が重くなった人へ。比べて落ちる夜を、ひとりで抱えこむ前に。男としての土台から組み直したい人のための教材がある。続きを読む前に、のぞいておくのもアリ。

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ACT V
THE VERDICT

第五幕 裁かれた。でも、あなたは対象外

夜の巨大な裁判所の正面の階段。柱の並ぶ建物の窓は暗く、階段には誰もいない。その階段に、星の形をした小さな金色のバッジがひとつだけ落ちて、光っている。赤い空
SCENE 5-1
先に、フェアに

ここまで読んで、「やっぱSNSが心を壊すんだ」って思ったかもしれない。

そこは、盛らずに書く。

学者のあいだでも、意見はガチで割れてる。

2019年、オックスフォードの研究者たちが、35万人以上の10代のデータで調べた。

画面を使う時間と、幸福の関係は、マイナス。でも小さい。幸福のばらつきのうち、説明できるのは最大0.4%。

論文には、こんな比べ方まで書いてある。

ジャガイモをよく食べることと、ほぼ同じくらいの小ささ。

ハイトの本にも、反論が出た。

心理学者のキャンディス・オジャーズは、科学誌Natureでこう書いてる。

TESTIMONY

「SNSについては、2つのことが別々に、どちらも本当でありうる。1つは、これらのプラットフォームを使うことが……心の病の流行を引き起こしている、という証拠はないこと。もう1つは、若い人がそこで過ごす時間の長さを考えれば、プラットフォームの大幅な改革が必要だということ。」

— キャンディス・オジャーズ(心理学者)、Nature(2024年)

反対側の学者も、「設計は直すべき」ってところでは一致してる。

人を責めない。仕組みを責める。この章の立ち位置は、そこにある。

SCENE 5-2
陪審が見たもの

2026年。アメリカで、SNSの「設計」が裁判にかけられた。

3月、ロサンゼルスの陪審は、MetaとYouTubeに「過失があった」と認めた。

賠償は、あわせて600万ドル。

法廷にはザッカーバーグ本人も立って、整形フィルターの判断について聞かれた。

6月、裁判官は会社側の「やり直し」の請求を退けて、こう書いた。

TESTIMONY

「原告がInstagramの設計の特徴によって害を受けたという、相当な証拠があった。……そのプラットフォームにどんな投稿が載っていたかとは関係なく。」

— ロサンゼルス上級裁判所のキャロリン・クール判事(2026年6月・ロイター)

中身じゃない。設計で、害を受けた。

Metaは「控訴で覆ると考えてる」と言ってる。結果は、まだ出てない。

SCENE 5-3
5年後に、戻ってきた案

8月26日。

Metaは、29の州との裁判を、和解で終わらせた。払うのは、最大で約180億ドル。

和解の条件に入ったのが、これ。

10代のアカウントは、いいねの数を最初から隠す。

「極端なメイクフィルター」を使えなくする。

10代は、FacebookとInstagramあわせて1日2時間の上限が、最初からオン。外すには親の許可がいる。

2021年に却下された案が、
2026年、
和解の条件になって
戻ってきた。

Metaは、責任は認めてない。そこは正確に書いとく。

でも、「最初から隠す」っていうのは、こういうこと。

0.72%じゃなくて、35%の側に、10代全員を置く。

日本でも、時間で縛る動きは出てる。

愛知県の豊明市は、2025年10月から、条例で「余暇のスマホは1日2時間以内を目安に」とした。市民全員が対象。罰則はない。

市によると、いちばんの目的は、睡眠時間の確保。

自治体ができるのは、時間の目安まで。点数の設計には、手が届かない。

このまま行ったら、どうなる?

和解が守るのは、10代だけ。

30歳のあなたのいいねは、明日も表示されたまま。

探索タブは、明日も、鍛えた男と、何百万ポンドの暮らしと、何百ドルの服を並べる。

比べて落ちる。

落ちた夜は、ゲームのランクに逃げる。

そこでもまた、点数を追う。

不満がたまったところに、「現状を変えたいなら」って広告が来る。

総務省の調査(2024年度)だと、20代の男が平日にネットに使う時間は、平均274.5分。パソコンもふくめて、1日4時間半。

10年続けたら、だいたい2年ぶんになる。

その2年のうち、どれだけが、他人の点数を見てる時間だろう。

しかも、これには気づきにくい。

酒には、二日酔いがある。スマホには、ない。

まわりも全員、同じ画面を見てる。比べる相手が全員同じ状態なら、それがおかしいって気づけない。

いつも比べてるのに、そこだけは比べられない。

このまま行ったら。

40歳になっても、あなたは、見たこともない男の腹筋と年収と顔で、自分の今日を採点してる。

AIは毎週、あなたの顔に「伸びしろ」をつけてくる。

自分のふつうの日を、他人のいちばんいい日と比べ続ける。

胴元にとって、あなたは一生、最高の客のままだ。

その採点、
一生、終わらない。

それでも、最初の設定は書き換えられる

でも、0.72%と35%の話は、ひっくり返せる。

人は、最初の設定をほとんど変えない。

なら、あなたの最初の設定を、1回だけ自分で書き換えればいい。

1回変えたら、今度は「変えない力」が、あなたの味方になる。

最初の設定を決められるのは、胴元だけじゃない。

戻る側の数字もある。

イギリスのバース大学の実験では、154人をくじで2つに分けて、片方だけSNSを1週間休んでもらった。

休んだほうは、気分のよさが上がって、落ちこみと不安が下がった。

10本の実験をまとめた2025年の分析は、やり方で分けて調べてた。

SNSを「減らす」やり方には、効果が出た。

「完全にやめる」やり方は、効果がはっきりしなかった。

どっちも効き目は小さめで、海外の、しかも女性の多いデータ。日本の男で確かめたものじゃない。

それでも、確かめられてる向きは、やめるじゃなくて、減らすだ。

だから、この先の手順はぜんぶ「減らす」側。

一、自分の「点数」に名前をつける

いいね。フォロワー。ゲームのランク。年収。腹筋。顔の点数。

自分がどの点数で自分を採点してるか、まず名前で呼んでみる。

名前がつくと、それは「自分の価値」じゃなくて、「どこかの会社が決めた物差し」に見えてくる。

二、いいねの数を隠す

Instagramは2021年から、いいねの数を隠す設定を選べる。

会社が「選べるようにしました」で止めた一歩を、自分で踏む。

0.72%の側に、自分から入る。

三、「おすすめ」より、知ってる人

探索タブやおすすめに並ぶのは、会社が選んだ「知らない人の、いちばんいい瞬間」。

知ってる人の投稿だけ見る時間を、わざとつくる。

あなたの友だちの、ふつうの日がそこにある。

四、時間と場所で、先に縛る

スタンフォード大の依存症の精神科医アンナ・レンブキは、使う前に「物理的な壁と、頭の中の壁」を置いておくやり方をすすめてる。

科学系のYouTubeチャンネルAsapSCIENCEは、その具体例をこう並べてた。

夜9時になったら、スマホは引き出しへ。

目覚ましは、スマホじゃない時計で。

画面を白黒にする。SNSはパソコンでだけ見る。

厚生労働省の睡眠ガイドにも、こう書いてある。

「寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠に寄与します」

豊明市の「1日2時間」も、目安としては悪くない。

ゲームなら、始める前に終わりの時間を決める。

で、その時間に止められるか、1回だけ試してみる。

止められたら、問題ない。そのまま楽しめばいい。

止められなかったら、それは意志が弱いんじゃない。壁を先に置いたほうがいい、っていうサイン。

ドイツの実験では、ゲームを2週間休んだ人たちは、のめりこみも、毎日のストレスも、不安も下がって、3か月後もそのままだった。

五、点数のつかない場所を、ひとつ持つ

ポッドキャスターで神経科学者のアンドリュー・ヒューバーマンは、自宅のジムにスマホを持ちこまないことにしてる、と話してた。

筋トレは、ほんとは点数のつかない時間だ。

鏡に映すのは、他人の腹筋じゃなくて、先週の自分。

六、歩く

ヒューバーマンには、もうひとつ話がある。

家の外は、少し歩くと電波が入らない。だから犬の散歩は、ずっとスマホなし。

最初は、たいくつすぎた。

それがいまでは、一日でいちばん好きな時間になった、って。

VOICE FROM THE COMMENTS

この動画を見たあと、スマホを家に置いて、20分外を歩いた。スマホでYouTubeを5時間見るより、その20分のほうがマジで楽しかった。

— YouTube コメント(高評価 419)/AsapSCIENCEのコメント欄

点数のつかない道を、足で行く。

フェアにいくために、こういう声も置いとく。

VOICE FROM THE COMMENTS

現実的に、社会の一員でいながらスマホを使わないのはムリ。とはいえ、SNSアプリの作られ方は……確実に私たちを壊してる。

— YouTube コメント(高評価 91)/AsapSCIENCEのコメント欄

そう。スマホを捨てろって話じゃない。

道具そのものは、悪じゃない。

問題は、あなたが比べて落ちるほど、儲かる人がいること。

FINALE
TIGHT SHOES

終幕 きつい靴を脱ぐ

大型トラックの運転席の中から、夜明けの荒野をまっすぐ伸びる一本道を見た光景。並んで座る二つの人影の後ろ姿。顔は見えない。窓の向こうの空は、赤から金色に変わり始めている

ドラマの後半。

点数が落ちて、借りられる車もなくなったレイシーは、ヒッチハイクで結婚式に向かう。

拾ってくれたのは、トラック運転手のスーザン。点数は1.4。

スーザンは、昔は4.6だったって言う。

点数のために生きてた、って。

夫が重い病気になったとき、受けたかった治療の枠は、点数が少し上の人に回された。

夫を亡くしたあと、スーザンは思ったことを、思ったときに言うようにした。

点数は、びっくりするくらい速く落ちた。

正直さが苦手な友だちは、離れていった。

“
WORDS TO REMEMBER

でも、マジで最高だった。……きつい靴を脱いだみたいだった。

— ドラマ『ブラック・ミラー』「ランク社会」(2016年)の字幕より、スーザンの台詞

レイシーは、すぐには乗れない。

「わたしなんて、まだ失うほどのものも持ってない」

じゃあなにが欲しいの、と聞かれて、こう答える。

「まあ、自分は大丈夫か、ってまわりを見て思えるくらい。ふーって、息を吐けるくらい」

彼女が欲しかったのは、4.5じゃなかった。息を吐ける場所だった。

SCENE F-1
牢屋で、笑う

けっきょくレイシーは、結婚式のスピーチでぜんぶ、ぶちまけて、点数は1点を切る。

牢屋に入れられて、目に入ってた採点のレンズも外される。

向かいの牢屋には、知らない男。

ふたりは、思ったことをそのまま言い合いはじめる。

ひどい悪口だ。ひげ、オーラ、頭の形まで。

で、ふたりとも、笑ってる。

採点の目がない場所で、レイシーは、この話でいちばん楽しそうだった。

脚本を書いたひとり、マイケル・シュアは、放送のころにこう話してた。

「だれの人生のどの部分も、いつも他人の人生と比べて測られてる」

「もう、片方の性だけの体型の問題じゃない。両方の性の、見た目の問題になった」

SCENE F-2
ヘラクレスは、いない

100年近く前、イギリスの哲学者バートランド・ラッセルが、『幸福論』(1930年)に書いた話がある。

自分の暮らしに足りるだけの給料をもらってる。満足していいはずだ。

でも、自分よりべつにえらくもないだれかが、倍もらってると聞く。

その瞬間、手もとにあるものの喜びは、くすんでいく。

で、こう続ける。

“
WORDS TO REMEMBER

倍の給料をもらっている男は、きっと、そのさらに倍をもらっているだれかのことを思って苦しんでいる。そうやって、きりがない。栄光を望むなら、ナポレオンを妬むこともあるだろう。だがナポレオンはカエサルを妬み、カエサルはアレクサンドロスを妬み、アレクサンドロスはおそらく、実在すらしなかったヘラクレスを妬んだ。

— バートランド・ラッセル『幸福論』(1930年)

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探索タブのいちばん上には、いつも、あなたより上のだれかがいる。

そのだれかの上にも、だれかがいる。

てっぺんにいるのは、加工された、実在しないヘラクレス。

比べっこに、ゴールはない。ゴールがないから、胴元は儲かる。

ラッセルは、その先にこう書いてる。

妬みからは、成功だけでは抜け出せない。歴史や伝説には、いつも自分より成功した人がいるから。

抜け出す道は、来た楽しみを味わうこと。やるべき仕事をやること。

そして、自分より恵まれてると(たぶんかんちがいで)思いこんでる相手と、比べないこと。

その星は、
あなたの値段じゃない。

SCENE F-3
それでも、比べちゃうなら

ラッセルの答えは、「比べない」。

正しい。スーザンも、そうやって靴を脱いだ。

でも、正直に言う。

比べるなって言われて、やめられたら苦労しない。

なら、もう割り切るしかない。

中途半端に比べるから、落ちる。

どうしても比べたいなら、比べるのがバカらしくなるくらい、圧倒的な存在になるしかない。

ただし、土俵は選ぶ。

顔の点数。いいねの数。フォロワー。

そこは胴元が作った物差しで、てっぺんには、加工されたヘラクレスがいる。

胴元の物差しの上では、勝てないように組まれてる。

画面の外の土俵なら、話がちがう。

自分から誘えるか。2回目につながるか。体。仕事。覇気。

そこにいるのは、加工のない、生身の相手だけだ。

積み上げた分が、そのまま自分の側に残る。

比べるなら、
画面の外で、
圧倒的に。

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今夜、SNSを消さなくてもいい。

アカウントを消さなくてもいい。

ただ、レイシーが牢屋に入って、やっと手に入れたもの。

それなら、牢屋に入らなくても手に入る。

スマホを家に置いて、近所を一周する。

だれも、あなたに星をつけない。

あなたも、だれにも星をつけない。

点数のない道で、やっと、息が吐ける。

NEXT CHAPTER
FINAL CHAPTER
男の孤独

4つの章の胴元は、
同じ原料を使っていた。

COMING SOON
END
映画は、ここで終わる。
扉は、ずっと開いている。

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  • この記事を書いた人

新生活真

ポルノ依存、カフェイン漬け、会話恐怖。大学4年間ボッチ。欲望に負けて浪費した時間、行動せずに過ぎ去った時間はもう戻らない。その現実に打ちのめされ、悔しさをバネに23歳より学び始めた。読書1000冊以上、29歳で一人海外へ行くまでに。「知識を行動に変え、人生の舵を自分で握る。」「過去は変えられないが、未来は選べる。」かつての自分のように苦しむ焦燥感に駆られる男性へ、時間を無駄にせず人生を変えるための学びを届ける情報を発信。

-設計された依存